さらば鋼鉄の奇岩城。
探偵はふり仰ぐ。黒雲に天守閣を隠した、かのあやしきサムライの城を。
(2017/01/13 22:26)
敷かれた歩道は緩やかな下り道で、汚泥の底なしが待っている。
横道は崖で、踏み出そうものならば落ちるとわかってる。
だから俯いて立ち止まるだけ。
せめて園芸スコップを拾っておけばよかった。
そうすれば、ここに穴を掘って、茜色のきれいな靴を埋めておけるのに。
(*未明ヶ丘冬子)
(2017/01/28 21:57)
あの子の背中に負ぶわれて、泣きながら夕闇の畦道を帰った冬の終わり、
今日はあの子の月命日。
あの子と過ごした日々は細く長くどこまでも遠く、背に負う幼い孫だけが、僕らの繋いだ長い月日の証なのだ。
(2017/03/20 2:13)
ぐるぐるボタンに花丸描いて、あの子の胸に縫いつける。
穴はわたしの心に空いて、ボタンで抉られるのを待っている。
(2017/04/15 22:24)
飛びうつれない。枝には桜。
花を散らして逃げるは負けか、それでも命を拾えば勝ちか。
白いつま先、泥を素足で踏むのは今だけ。
泣くな、怯むな、死んだつもりで生きてゆけ。
(2017/4/22 21:32)
「あ」は、暑いのあ。
「い」は、苛々するのい。
「た」は、退屈のた。
「い」は、意地悪のい。
ころん、ころん、
置き去りグラスの氷が溶けて、
あたしは今年も一人で実家。
(2017/05/03 14:03)
紡ごう紡ごう糸を紡ごう、くるくるくるくる、くるくるりんくる。紡ぎ糸の滑る指が、血塗れに涎塗れに泥だらけ、ああそれこそが素晴らしい!わたしはただの糸紡ぎ、人の生などいらないの。わたしはただの糸紡ぎ、そうそれでこそ本願成就、死なない甲斐もあるというもの、くるくる回って踊り明かそう。
(2017/05/03 14:19)
美しさの右端に、泥に汚れた鼠が一匹。
(2017/05/19 22:52)
あたしの手からこぼれるものは、
あたしが手にしようとしたものだけ。
もとから諦めているものは、取り落としたりできない。
どうせこの手は穴だらけ、水を飲むことさえ難しい。
(2017/06/08 19:13)
「君は今から時速6千歩で歩き続けなければならない。それよりスピードが落ちると…」
「どうなるってんだ?」
「燃焼した脂肪が急激に酸素を取り込み、爆発する」
「!?」
「死にたくなければこれから一生ウォーキングに励むんだな! ハハハ!」
「おい!? ……クソッ! 電話切りやがった!」
(2017/06/08 23:36)
わたしはここで甘いお菓子を砕くだけ。アリさんアリさん寄っといで。わたしを食べてくださいな。
(2017/07/08 00:06)
失っていいはずがない。
そんなわけにはいかないのに。
膝を抱えて、流れ出る血をただ見てる。
わたしのなかの、あの子が死んでしまう。
(なかにいるのは、エファラ、とてもかわいい素直な子。
マヴロ、意地悪だけれど義に熱い。
ヘンリエル、ゆっくりと話す思慮深い娘。
セラヴァム、いつも空ばかり見ている。
メノレイ、小難しいことを話すときに一番わかりやすい笑顔になる。
足首から流れ出る血に溶けるのは、誰?)
(2017/07/09 21:42)
雨がざあざあわたしを打って、
体温強盗、
ぱちゃりぱちゃり。
靴の中まで海のなか。
塩水なんておいしくないよ。
わたしの体温、返してよ。
(2017/07/20 01:17)
割れたガラスの容器に雲の光を詰め込んで、ヒビから漏れるあわいあかりを常夜灯にして眠る。
私が少年だった頃、屋根裏に住んでいた小人が、確かそんなことを言っていた。
(2017/08/23 21:50)
とてつもなく大きな失敗をしてしまったあとの、ぽっかりとした恐れの底なし穴。
お願いです。
この穴に、罵倒も哀れみも軽蔑も投げ込まないで、穴を避けて通ってください。
せめてこの身で暗がりを埋められたならよかったのに、穴がこんなに深いとわたし一人じゃ塞げやしないのです。
(2017/09/02 9:56)
手のぬくみを知りたくて、草をむしる。
緑の汁を洗い流す水のつめたさ、とろとろと襲いくるものはやさしい眠気のひとそよぎ。
(2017/09/13 21:20)
春色トキ色、
夏色そら色、
秋色くり色、
冬色あお色。
(2017/09/23 09:13)
どきどき秋分かれの日。
こっちの水は梨の味。
あっちの水はぶどう味。
岸から岸へ、橋を渡れば、千々に乱れた色とりどりの、樹々のいのちが跳ね散って。
橋の果てにはかぐわしい、林檎の色した泉が揺れて、枯葉の淵へと続いてる。
(2017/09/23 09:22)
拝啓とんぼ様、秋の夕日はあまりに遠くてきれいだよ。きっと手の届かないものこそが美しいなんていうあたりまえな絶望を、僕に教えているんだね。お節介もいいとこさ。
(2017/09/23 16:50)
わたしの心を洗って干して、夕暮れの黒い枝影に吊るしてください。おやすみなさい、よい夢を。
(2017/09/30 02:49)
あの子は十五夜お月さまよりも明るくて真っ白だから。
あたしは雲になりたくない。
それだけなのに、どうしてわかってもらえないのだろう。
(2017/10/06 22:36)
お手玉を埋めたお墓にあたしの蛙も眠っているから。
怖くないわ、エイユィリィ。
あたしのお墓を掘るときは、金色の毬も一緒に埋めてね、約束してね、エイユィリィ。
ロンララ、ルーロイ、ロンララ、ルーラ。
(2017/10/29 21:55)
私の貯金箱には青いコインが三十枚。
赤いコインが千百枚。
あわせて千百三十枚。
金のコインはもうないの、君を買うのに使ったの。
(2017/11/06 00:20)
はじめてーのー誅♪
きみーとー誅♪
I will give all my lead bullet!
王よ暴虐はそこまでだ
(2017/11/27 22:56)
潜る意識の底はぐるぐる、
渦巻いて足首を掴み引き寄せ撫でさする。
悲しいものだけ沈んでしまった砂州のほとり。
渡し舟はまだ来ないので、眠れないぼくは寝返りをまたひとつ。
(2017/12/13 7:02)
白く濁ったかけらは砕けるのを待つばかり。
ひび割れて屑がぽろぽろ落ちてきて、握るわたしの手を切って……、
それでも大切にしなさいと他人(ひと)は言うのだ。
捨ててしまいたい。
わたしを生み育んだ大地の、かけがえない一部分だったとしても。
(2017/12/13 21:50)
宝石に惹かれたことがない。
年頃の同性がみな心をときめかせているらしい、鉱物のきらめきに憧れたことがない。
あたしがせいぜい好んでいるのはくすんだ銀、手入れされずに放り出されたかつてはもてはやされたもの。
若さのなれの果て、それでも磨けばいつでも光る。
(2017/12/20 21:19)