どうして出てきたの、と聖子は目の前の少年に聞いた。
少年は静かに笑んだ。
その瞳の持つ意味に聖子は観念した。
なんと怖ろしい目ができるのか。
そういうことなのか。
少年の声がした気がした。
「聖子は狂っているね」
聖子は、少年を見下ろして、首をかしげた。
「私は立派に社会人として給料だって貰う身よ、吉基。普通に生きて普通に生活して、普通に人と接しているわ。狂っているわけ無いじゃない?婚約者の彼もいるし、幸せなのよ、私。」
「だからおかしいんだよ」
少年は笑みを絶やさなかった。
聖子は微笑んでそれを見返していた。
何年ぶりにこの少年の顔を見ているのだろう。
成長していない少年。
「そんな幸せな私を、あなたは殺しに来たのね。でもいいわよ。あなたはそうする権利があるものね。いいのよ。あなたはそれをする自由を持っているわ。正当な権利を持っているわ。」
少年は笑みを消しながらまた笑んだ。
そうして哀しそうに首を振った。
「やっぱり聖子ちゃんは狂っているんだね。」
「こどもには分からなかったかしら」
「分かるよ。
 聖子ちゃんはぼくを殺したくせに、何も思わないんだね。」
「人を殺すのは悪いことよ。知っているわ。大丈夫よ」
「知っていないよ。聖子」
少年はまた首を振った。
そしてひややかな手の平でただ聖子の鼻と口を覆い続けた。



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