「いいのよ、泣かなくて」
ひややっこ(絹ごし)にのったフリーズドライの浅葱がさわさわ冷房に吹かれて言う。
わたしは、
味噌汁の椀に唇をつけ、
かつおだしを喉に最初に香らせてから、
茄子の味噌の味を舌に乗せて食道へ流し込んでいった。
夕暮れ時。
蜩が網戸から聴こえ、風は緩やかに、夏の空はまだしばらくなら薄明るくある。
喉がなる。
味噌汁の椀から、唇をそっと遠ざけ舌を突き出して口周りを舐めた。
椀を置き、茶碗を手に取るとじんとした熱さが陶器越しに手相を深くした。
五分の精米をしたばかりの炊き立ては、おかずの沢庵によく合っていてちょうどいい。
ひややっこの上の細かな緑は相変わらず、
「いいのよ、泣かなくて」とふいふい揺れている。
一つ二つが、醤油の溜まりに落ち込んでみじめに浮遊していた。
気付けば西日はやけにつよくなり、蜩の声も耳を突くほどではなくなっていた。
網戸から吹き込む風の生温さが茄子の味噌汁に合う。
少しだけ失敗した。
味噌を入れすぎたのだろうか。
味が濃い。
味が濃い。