折鶴がかごに乗って夜の月間に旅に出るのを見た。
安い千代紙で折られたにも関わらず雪に濡れぬようこれまた紙のかぶとを不恰好に被り窓を開けろと同じく折り紙の蛙に催促している。
眠ったふりをしていた。
起きれば何事もなかったかのようにぱたりとふわんと紙に戻って床に無機質に落ちて以降きっと動くことはないだろうと本能みたいなところで知っていたからだと思う。

雲が翳る。
雪はただ舞っていた。

目を逸らさないようにして乾いた目で瞬くとそれが合図だったかのようにかごをフラフラ揺らしながら鶴が旅に出た。
二階の窓から落ちもせず空を飛び舞う雪の濁りに紙のかぶとをたちまちに濡らす。
風が出ていてそれはけして強風というのではなかったけれど弱い白い折り紙でつくられたかぶとが飛び荒んでしまうのには十分な強さでもあった。
たちまちに防護を失う朱千代の折鶴。
すぐに濡れてしまうのは分かっていた。
そもそもが同じ千代紙から折られたかごもそう長くはもたないに決まっていたのだ。

鶴は飛んだ。
雪の向こうに見えなくなりあとは薄あかい濁った夜の雲だけが広く重くぬくぬくとカーテンの隙間から垂れ下がっていた。

次の日の朝玄関から長靴で雪を踏みしだき鶴を探した。
何か柔らかなものを踏んだように思い下を掘ってみたが何も居ない。
ああではあの鶴は無事に旅路へ乗ることが出来たのか。
指をかじかませる雪の結晶を振り、でももう少し探索しようと長靴に被さる雪の中を掻き分け始める。
朝日は白くまだ小雪が舞い風は耳からこごえを心臓に送る爽やかな涼しさ。

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