新しい飛空機械を造ったと興奮した電話がかかってきた。
叔父さんは参ったことに僕より二つも年下で、中学生。
飛行機雲のクラブに所属している。
『今度の理論は完璧さ! 何せ新しく習った公式も組み込んだんだからな』
「何の公式だよ」
『企業秘密だ』
――自信満々の様子なので飛行実験に付き合うことにした。
雲がむくむくと境界を淡く白いだけの海の傍にスニーカーで出かけた。
裏山の切り立った崖っぽいところに白いベンチを見つけ、剥げた錆びの上に背負い鞄を放り置く。
そこにはおかっぱの見たことの無い女の子もいた。
生意気に、叔父の彼女だろうかとも思ったけれど恥ずかしそうに僕を見てベンチの裏に回ってしまう人見知りさは気に入ったのであえて聞かないで希望を抱いておく。
先に待っていた叔父は短く切った髪をはさはさ浮かせてサーフボードを十字に組み合わせた変なものを持っていた。
「――やあ、来たねシンちゃん。これからお目にかけよう、魔法の飛行を。俺は確実に飛ぶぜ」
ただ叔父であるというだけで彼はそんな口のきき方をする。
こういうやつが意外に大人になったら風紀委員会の顧問をやったりするんだ。
「あの」
雀みたいな小声で僕は思考を中断する。
「ん?」
「一進さんですよね」
「そうだよ」
おかっぱの少女がいつの間にか隣に来ていた。
木綿のTシャツに薄いグリーンのスカートだった。
叔父はいつの間にか口上も無しに飛んでいた。
ざわり、と裏手の新緑がいっせいに葉を擦れあわせて眼下の外れに海がきらめいた。
叔父は飛んでいた。
並んだおかっぱと僕の背中に風が吹き上がり、サーフボードに立ち上がって手を広げた叔父はそのまま雲の向こうへ爽快なまでに空気に乗りながら、鴎と手をつないで消えて行ってしまった。
病床で僕はそのような夢を見ていたのだった。
僕は回復して叔父がその夏水死した。