おめでとう
「せんせい……」
ホテルの窓から灯りに満たされた下の街を憑かれたように見つめて、エレオノールは彼女のたったひとりの保護者に話しかけた。
ベッドに腰掛け、本を読んでいたギイが顔をあげて僅かに顔を緩めた。
(それが微笑みと気付く者は果たしていただろうか)
「どうした、エレオノール?」
「今晩は、どうしてあんなに人が多いの? みんなは寝ないの?」
「新年だからさ。」
十代後半ほどの容姿を持ったギイが、まるで娘でも見るかのように人形のような銀髪の少女の頭に手を置いた。
隣に来たギイにぎこちないながらも嬉しそうに振り向き、エレオノールが首を傾げる。
「おいわいする日なのですか?」
「……そうだよ。特別な日なんだ。」
彼女の頭に白いレースのリボンを結びながらギイは頷いた。
黙ってされるがままになっていたエレオノールが、リボンを結び終えたギイを見上げる。
「…これは……?」
「特別な日だから。君にあげるよ。」
誕生日プレゼントだ、というのは、彼がこの日、毎年心に秘めて言わない言葉のひとつだった。
誕生日おめでとう、エレオノール。