泣いてた人
母屋から甲高く陶器の割れる音がして、怒鳴り声が響いたので外で型を練習していた鳴海は動きを止めた。
どこが悪いのか、どうしたら直るのか、教えてもらったとおりのことは頭には入っているのだが、身体がついていかない。
掴むには、繰り返さねばならなかった。
汗に濡れたTシャツの裾で手を拭って、声のした方に顔を向ける。
砂埃にまみれた道場の上にかかる空は既に紺をまとい、気づかないうちに過ぎた時間の早さを鳴海少年に教えた。
今度は乾いた音が激しく響いて、もう一度大声が鳴海の耳に飛び込む。
「…………」
原因は一応分かるつもりだ。自分の入り込む問題でないことも分かる。
軽く首を振って練習に戻ろうと身を構えた鳴海の背後に、彼よりやや年上の少女(と女性の間、と言った方が正確な年頃かもしれなかった)が猛然と現われた。
五感を研ぎ澄ませていた鳴海が、反射的に振り向く。
すぐに彼はその細身の身体全体で後悔した。
十五歳になったばかりの師父の一人娘が顔をぐしゃぐしゃにしたまま、予期しなかった自分の存在に困惑と苛立ちを向けているのだった。
「ミ、」
「……!!」
「ぅッ」
きっと睨まれてすぐに口をつぐんだ鳴海の側を全く無視して真っ赤な目でずかずかと通りすぎ、ミンシアはずっと先の道場裏の方へと小走りに去っていった。
頬が酷く腫れていたのが鳴海の脳裏に印象的だった。
*
「なぁミンシア。」
「何よ?」
「平気か?」
「あんた、私を何だと思ってるのよ?」
砂漠で不敵に笑ってみせるミンシアを困ったように見下ろし、鳴海は機械の指を所在無さげに軋ませた。
「眼が赤いじゃねえか……」
「……砂が眼に入ったのよ」
「昔は、オレが泣かされてばっかだったのになァ」
ぼうっと呟いたミンハイを一発小突いて、ミンシアが溜め息をついた。
「バカね、あんたが泣いてるのなんてここで初めて見たんだから、私。」
いつも怒っては泣いて、それで好き勝手やってたのは私だわ。
赤い砂の欠片と焦げた匂いに包まれて膝に顔を埋め、ミンシアは心中で呟いた。