嘘ではない

「別におまえが嫌いなわけではないよ」
薄手のペーパーバックに押し花の上品な栞を挟んで、ギイは粗野な男の方を見上げた。
「気に入っていないわけでもないよ」
鳴海が黙っているので、ギイはもうひとつ続けて、無言で本に戻った。
鳴海も腕の手入れに戻った。
「オレはおまえが嫌いだぜ。」
義手の具合を右手で調整しながら、鳴海が答える。
「けど、感謝してるさ、結構よ。」
本から顔をあげてだったら態度に表したらどうだと言いかけたギイは、照れたように笑う鳴海の横顔を無表情で見つめて、口を閉じた。
「おまえは面倒くさい患者だな、まったく」
「マザコン医師に言われたかねーよ!」
手近にあったフランス語の練習帳を投げつけると、銀髪の美青年はさっと避けた。

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