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オフクロー!

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 晴れた冬の日。おこげ学園の昼休み、一年F組。
 どこか浮かれた教室の隅、ひとりきりで座り、赤いパッケージから細い棒状の菓子をつまんでは咀嚼する華やかな見た目の女子がいる。前の席に座る男子が、不意に彼女を振り返る。浮かれた空気を必要以上に煮詰めた笑顔で、その男――佐原は缶しるこを片手に、桃太郎さんの節回しで歌いながら、白緑亜緒を覗き込む。

「あーおちゃん。おてての中のーそのポッキー、俺にもひとつ、くっださいなー」
「嫌よ」

 顔の前につきだされた手を避けて、手元のポッキーがまた一本、みるみるうちに赤い唇に消えていく。

「えーそんなつれないこと言わないでさー俺だってチョコが」
「うるさい。義理が欲しいなら他の女子に言ってよ……辰巳くんもなに? 欲しいの?」
「いや、別に」

 いじける佐原の背後から、亜緒を眺めていた料馬は素直に首を振った。
 二つ結びの黒い毛先が、苛立つように僅かに跳ねた。

「あっそう、じゃあなによ。用もないのにこっち見ないでよ」
「うん、そうじゃなくて、亜緒ちゃん、今日の昼めしポッキーで済ます気だろ?」

 と、皮の厚い手が、武骨な鞄を探りだす。
 亜緒は席を立った。鰯の勢いで教室のドアへと突進する。

 ――しかし!
 いかなる合わせ調味料の技なのか、その前にがっしりとした料馬の胸が立ちふさがる!

「ぅぷっ! ちょ、いらない、いらないからね!!」
「ほら、弁当作ってきたからさ」
「いらないって言ってるでしょっ!」

 回り込もうとしたジャン…白緑亜緒の前に、素早く立ちふさがる辰巳料馬!!
 親の仇を見るかのような目で睨みあげる亜緒の眼前には、料馬が従姉から借りた可愛らしい弁当箱がタンポポ柄のハンカチに包まれてすっぽんのように張りついている!

「そう言わずにほら。旨いよ」
「いりません。佐原くんにあげればいいでしょ」

 ターン。
 ついてくるタンポポ。

 またもターン。
 ついてくるタンポポ。

 廊下を走る。
 ついてくるタンポポ。

 屋上の乾いた空。身を切る風。
 やはりついてくるタンポポ。

「ほら。昼休み終わっちゃうし。意地張らないでさ、食いなよ」

 本来は立ち入り禁止のため、二人きりになった屋上で、にまりと笑う料馬……いやオフクローは、ジャンキーホワイトたる天敵にあくまでも弁当をつきつけ続ける。

「なんなら夕飯にしてくれてもいいからさ。レミ姉にこのまま返したら、悲しまれるんだよね」
「ふ。そんなの辰巳くんの勝手でしょ。せいぜいお姉さんに慰めてもらえばいいわ」

 結ばれた二つの毛先が、冬の風に煽られた。
 薄い水の空、背中を向けていた白緑亜緒……いや、ジャンキーホワイトは、短いプリーツスカートのポケットから、赤と白のパッケージをした棒チョコ菓子の箱を振り返りざまに左右それぞれの手に素早く引き出し、跳躍した!

「油断したわね! ここまでくれば、もうあたしの戦場よ! トッPPOッキーの威力思いしれ!」

不意をつかれ、防御が間に合わないオフクローに、ジャンキーホワイトの必殺技が迫る……!

というバレンタイン。

オフクロー!
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