――2月某日 PM 2:00
【上映会】は夕方四時に開催される。
小さい組の子たちがお昼寝から目覚めるのが午後三時。みんなでお昼寝布団の片づけをして、おやつを食べたあとのレクリエーション、という位置づけだ。
準備は昼食後、小さい組の子たちがお昼寝してる今のうちに、小学生中学生組の手を借りて行われる。
まずは講堂の掃除。危ないものを片付けてから、音響機器を設置したり、スクリーンの投影テストをしたりしていると時間は瞬く間に過ぎていく。
私の手伝いには『怪獣組』の男の子と『ラフレシア組』の女の子がついた。意外にも素直に指示に従ってくれる。時々すれ違いざまに三毛縞さんに一撃入れようとして空を切っているくらいで、平和なものだ。
男の子の方は、ダンスレッスンで目力が印象的だったあの子だった。レッスンの後の質問タイムで、彼は手を上げて質問したのだった。「どうしたら『プロデューサー』になれますか」――と。
――俺、アイドルじゃなくて。『プロデューサー』になりたいんです。
そのせいだろうか。彼は非常に熱心だ。私の一挙手一投足を観察し、考えている。本気なのだろう。
マイクに声を吹き込む。一番遠い講堂入り口で、『ラフレシア』組の女の子が両手を上げて、大きく「丸」を作る。私も大きく「丸」を作り、応えた。マイクテストOK。少年がメモを取る。声変わり中のかすれ声で、はい、と低く返事をする。
――『プロデューサー』に必要なものはなんですか?
うまく答えられた自信はない。だって私にもわからない。必要なものがあったとして、それを私が手にしたことがあったのだろうか。
転校先で出会った四人の輝く星たちに手を引かれて、それがあんまり幸せで嬉しかったから、夢中で走り続けてきただけだ。だから、敢えていうのなら。
――三時間前 / 2月某日 AM 11:00
エプロンのポケットを弄び、中に入っていない答えを探すみたいに、うまく使えない言葉を拾い上げていく。
「……『星』を見つけること、かな。あなただけの、愛すべき星」
「ほお! その心は!? ……ヒッ!?」
無駄に合いの手を入れてくる三毛縞さんをそっと制して、少年を見つめ返した。
「『プロデューサー』の仕事は、アイドル星とファンが出逢える場所を、用意してあげること、だから……」
幼子が、わけもわからず大人の模倣を始めるように。
大人びた同級生を真似て、慣れないメイク道具の使いみちを覚えるように。
最初は星をきれいに見せる方法を教えてもらって。うまくいったら、やがて自分でも考えて、自分だけの観測場所を探せばいいんだと思う。
……私も、あなたたちが目の敵にする、ちょっとうるさい隣の「先生」に教えてもらったよ。
頬が綻ぶのを自覚して、指を組む。
「映像でも、生でも、ステージを、たくさん見てみて。今日の【上映会】でも、いくつか流す予定だから」
そしてもし、世界中に見せびらかしたいと思えるような、自分だけのひときわ輝く星を見つけられたら。
「夢ノ咲でも、ESでも、今は勉強する場所、いっぱいあるから。……ひと足先に待ってるね。ステージで」
存分に見せびらかし合いましょう。
……私の星もあなたの星も、キレイだねって、笑おうね。