――【上映会】の終わり
さて。
今夜のアタシは、もう店じまいだ。
最高に楽しかったけど、アンコールはなし。クリスマスが終わったらゴーストは消える、それって王道でしょ。
あんまり派手に踊ったら、どうしたって何年もいっしょにいた子には「ボス」がいるぞーってバレてしまうだろうし。っていうか正直、昨日からアタシもひつぎもあんずと会えるのが楽しみすぎて寝られなかったから、眠いし。
意外にもあんずは楽しくなってきたらしく、上映会が終わっても続くダンスに引き込まれても逆らわない。今度はプロデューサー志望のあいつと踊ってる。あの子って、目の前にあるものがあんまり楽しいと、つい夢中になって、魂ぜんぶ突っ込んじゃうところある。無茶するよね。ちょっと心配。
ああほら、そんなんだから後ろの子たちと腰がぶつかった。謝ってる。ついでにすれ違ったから、今度は三毛縞先生と踊るみたい。
「おおっと。はは。いっしょに踊ってくれるのかあ」
引っ張って、くるりと回ってとんとんとん。あんずはダンスが得意じゃないのに、体格差をものともしないんだからリードが上手だ。
「……ありがとうございます」
「ふむ?」
「三毛縞さんのおかげで、いい【上映会】になりました」
「うんうん、まさにアイドルとプロデューサーの共同作業って感じだったなあ! それこそ俺が昔、君に一人二役で演じて見せた、おままごとの結婚式みた……痛い痛い! あんずさん痛いぞお! 足を踏まないでほしいなあ!」
お祭りの輪の中で、踊る、踊る。あんずが微笑む。
「……なんで笑ってるんだあ?」
「わかりません」
おかしそうに首をかしげて、花咲くようにまた笑う。
「……ううん、星があんまり近くにいすぎて、眩しいからかも。……ちゃんと、空に戻れるように、もっと頑張りますから」
「俺といっしょに?」
「……」
「なんで黙るのかなあ!」
「……ふふ。そうですね。頑張ります。いっしょに」
幸せそうにしちゃってさ。
あんず、今の笑顔、かわいいよ。
アイドルよりも、いい顔してるかもね。
アタシはひっそりとひとり、講堂から中庭に抜け出した。
雪が舞っている。
愛する弟の長い復讐の日々は終わり、泣かせてしまった大切な友達とも再会できて、幸せそうに笑ってくれた。
よかった。
アタシ、やっぱり、生きててよかった。
ねぇあんず。
キミの旧い友達、すごいアイドルだね。
けどアタシも負けないよ。
ひつぎも、アタシも、きっとまた、同じ世界で生きていくから。
冬を越えてまた会おう、
夜のなかで、
お日さまの下で、
神様の目を盗んで、
キラキラのアンサンブルを奏でる、眩しいステージで。
講堂の屋根に、二月の雪は花びらのように降り積もる。
舞鶴舎に、少しだけ早い春が来る。