「あのね、あたし今すっごく不安なんだよね」
その割にいつもの偉そうな口調のままの彼女を見て、彼はへえ、と曖昧に頷いた。
草の上に寝転んでいる少女が太陽のきらめく空を見上げると、雲が早く空を駆けていった。
空は風が速いのだろう。
土手の上から犬が吠える声がして、すぐに飼主のおじさんがこら、と引き戻す首輪の金属音が続く。
少女は寝返りを打つように少年から目をそらして草を何本か所在無さげにちぎった。
「ねえ」
何、と少年が聞く。
少女は綺麗な形の唇でバイオリンのような声を紡いだ。
「私ここでこんなことしてていいのかな」
「いいんじゃない。放課後は自由時間だ」
「そうじゃ、なくてさ。……なんか世界の滅びに手を貸してるって感じ」
少女の言い分にさっぱり思い当たるところが無かったので少年はそんなことないんじゃない、と答えた。
川をつっかえつっかえ流れてきた空き缶が水草に絡んでいるのが見えた。
少女はいいよあんたになんかどうせ分かんないと呟くと、顔を背けたまま黙った。
そして草を何本かまたちぎった。