「別にね、二度と会えないわけでもないんだし。構わないのよ」
少女は言って、雪の残る道路を軽く蹴った。
風は今も冷たく、どこを見ても冬はまだそこにあり、これから来る季節の予兆すらそこには存在していなかった。
少年は少女の後ろで顔を切なげに伏せた。
季節は巡る。
春は三百六十五日耐えぬけば再び姿を現すし、日付も一年巡ればまた同じ。
永遠に回帰する様々のものはあろうとも、この冬は一度きりだ。
どんなに願おうとも、この寒さを肌で感じるのは、少女とともに味わうのは―― 一度きりだ。
「……でも、もう」
少女の肩を掴む手が震えて、少年は擦れた声と僅かに遅れた白い息を吐き出した。
川音が土手の下から氷のように響き渡り、電車の近づく音が遠く高く空を渡っていった。
不意に少女が振りかえって少年を見た。
「知ってるわ。……空が、落ちそうだものね」
もっと大きな衝撃が来ると思っていたのに、少女の言葉は少年の胸にじわりと自然に沁みていった。
かすかにに笑みさえ浮かべて、彼はそうなんだ、と言った。
「もうすぐだよ」
少女がその言葉に口元を歪めて、肩におかれた少年の手に、細い指を弱弱しく置いた。
「でももう会えないなんて事はないのよ。二度とそばであんたの顔を見れなくたって、あんたの声が聞けなくなったって、二度と会えないなんて事はないのよ」
少女の矛盾だらけの言葉に少年は堪らなくなって後ろから少女をきつく抱き締めた。
側を通り抜けるトラックから響くカーラジオが、明後日には雲は晴れるだろうと抑揚のない声で読み上げていた。
川面はいつまでもそのままで、白い飛沫を上げ冬の大地の隙間を流れゆく透明な水の旅路だった。