きっと君は泣くよ。
少年はくすぐったそうに微笑んで言った。
少女は目を逸らして揺れる木の枝に目を遣った。
少しずつ茶の濃くなる――それとも、薄まっている?木の幹の色は季節の変わり方を鮮烈に眼へと伝えてくる。
「泣くわけないでしょ。」
「泣くよ。」
少年があまりに嬉しそうな顔で言うので、少女はむっとして少年を睨んだ。
「あたしが泣くのがそんなに楽しみだっていうの? 結構なことね!」
「、あ。」
はた、と自分の笑みの意味するところに気付いた彼は目をしばたかせて睨みつける黒い瞳を見返した。
「あ…ごめん。」
「……あんたなんてあたしは知らないわ」
「ごめんってば。」
少女の方に手を伸ばせば、彼女は鋭くそれを払う。
彼女は機嫌を損ねるとどうしようもなく厄介だ。
「だってさ、嬉しいじゃないか。君が泣いてくれるって、思うのは」
秋風が芯まで寒く、薄着をしてきたことを後悔して少女は少年の腕に身体を押しつけた。
「寒い」
「聞いてる?」
「聞いてない」
「聞いてるよね。」
「聞いてないったら、寒いのあたしは。」
少年は困ったように首を傾げて、それから少女の頭に手をさらりと埋めて天を見上げた。
空の高さは不思議なほどで、雲の行方はまるでどこかの神殿へと祈りを捧げに行くもののように思えるのだった。
きっと、来年の秋空は比べ物にならないくらいに高く澄んで、目を惹き付けるのだろう。
蜻蛉はその中ほどを音も立てずに渡り、月のかかる高さも無情なほど優しくかかるだろうと彼は溜め息を漏らした。
青い空と涼しく木々をざわつかせる風に目を閉じて、少年は少女に囁いた。
「僕は君が泣いてくれるくらい君にとって大切だって、自惚れてるんだけどなあ」
少女は顔を僅かに動かして、より強く少年の腕に頭を押しつけた。
「……自惚れもいいとこだわ」
「そう?」
「分かってて聞くところが大嫌いよ」
少年は頭を撫でていた手を彼女の肩に優しく回して嬉しそうに微笑んだ。
――でもそんな君が、僕は好きだよ。