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『少年と少女』

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「本当はね、どうでもよかったの。」
彼女は橋の上から大きく孤を描いて落ちた石の波紋を見ながら呟いた。
「別に幸せになりたいなんて思ってなかった。不幸なら不幸で、ヒロインぶって生きていくのもかっこいいと思ったのよ。」
少年は、黙って橋に背を向けながら鬱々と曇った空を見上げた。
「ちょっといいことがあったって、なくなるのも怖くなかったし、世界は汚いと思ってた。」
「……そう」
「別に今は世界が綺麗に思えるなんて言ってるわけじゃないのよ。でも……思ったよりずっと、ここは汚くないなって、それは分かった」

――ああ、もう一言。

波立つ川面に触れたその声は、誰のものだっただろうか。

少年と少女