皿洗い説教
「坊ちゃま」
静かな梅子の声に、孝二郎は黙って正座をした。
皿洗いでもしてやろうかと手を出して、琴子の大事にしている皿を割ったのは、確かに孝二郎本人である。
申し開きの仕様もないが、さりとて謝るのも癪であるし、しかし謝らないわけにもいかないので、とりあえず正座をしてみたというだけのことである。
あまり家事に手を出さない方がいいのかもしれないと、最近はさすがに悟りかけてきた。
しかし何もしないとそれはそれで琴子叔母のあきれ顔が嫌なのである。
大人しく正座した孝二郎を見つめて、背負った赤子を揺らしながら。
眼鏡の奥で幼馴染でもある妻は、そっと視線を和らげた。
「怒りませんから、教えてください。どうして、割ってしまったんですか?」
「落としたからだろ」
「そういうことじゃありません」
――怒らないと言ったばかりじゃねえか。
眉根を寄せて、孝二郎は視線を逸らした。
秋風が、そよかに網戸から吹き込んでくる。
りいりいと、虫が澄んだ鳴き声を響かせているのに、耳を傾けて、孝二郎は暫し滾々と続く説教の現実から秋の夜長に逃避した。
*
(相変わらず駄目な孝二郎。)