January Jingle
一月の冬休みの最後の週、幼なじみは受験生で、私は気楽な中二だった。
親戚のおうちから帰ってきて暫らくして、近くのおじさんが幼なじみを連れてうちに挨拶にやってきた。
大人の人達はお酒を飲んでとてもご機嫌で、こういうとき子供たちは少し居心地が悪くなる。
テレビゲームなんかしていれば平和なのだけれどあいにく居間は宴会場だ。
と、いうわけでみんなで兄さんと弟の六畳間に逃げ込んで人生ゲームを始めた。
正確には始めようとしていた。
私は少し、このお兄さん達は受験勉強をしなくていいんだろうか。と思っていた。
「提案がある」
兄さんが重々しい顔で腕を組んだ。
兄さんと一応親友の彼は顔も向けずにすげなく無視し、順番決めのルーレットを回した。
「おい!」
「どうせしょうもないことに決まってるから却下。ああいい数字が出たね、おまえが一番かな」
「おおやったー」
まだ小学生の弟は参加させてもらったのが嬉しいのかご機嫌だ。
私は肩を竦めた。
幼なじみが自分の順番を回してまあまあの数を出し、私をちらと横目で見た。
「じゃあ次は」
「まあ聞け悪い提案じゃないぜ。一番だった奴が残った宿題を全部やる」
「……うるさい一人でやれ」
相棒に不機嫌な一言で切って捨てられるのは珍しかったので兄さんは怒ってお菓子を投げつけた。
非常に大人気ない。
せんべいが割れる音がして幼なじみは近くの漫画で兄さんを叩いた。
「姉ちゃん三番だよ」
「そう」
弟の妙に勝ち誇った声がおかしいなあなんてことを思いながらちらと年上二人を見た。
兄さんは人生ゲームが非常に弱く、強いのは大抵私か幼なじみなのでこういう提案が出てきたのだろう。
享は結構ビギナーズラックがあるけれど基本的にルールをところどころ勘違いしている。
居間からお父さんの大きな笑い声が聞こえてきた。
一通りやや乱暴などつきあいを済ませてから兄さんがあああ、と大袈裟に溜息をついた。
「おめぇには優しさってもんがないわけ? 参ったね。冷たいなァ」
「今年くらいは自力でやれよ、受験生だろ。だいたい、妹に恥ずかしくないのか」
「にーちゃん俺もうやっていい?」
「体育推薦だからそんなの知らねえ。あーやる気なくなった。鏡餅食いたくなった」
「なーもうルーレット回していい?」
「じゃあ俺の読書感想文書いてくれたらお年玉百円やる」
混沌としてきた。
軽く息をついて窓の外、寒そうな灰色景色を眺める。
セーターの袖口を引っ張って寒いのを少し隠した。
頭をぽんと撫でられてちらと横を見る。
「まったく。こういうのは見本にしては駄目だよ」
「…言われなくてもしないけど。人生ゲームどうなってるの?」
幼なじみは苦笑してそれから気付いたように頭の手を離してまた曖昧に笑った。
この人も妙に良く分からないところがあると思う。
冬休みというのはこうして何だかんだで思っているよりずっと早く過ぎてしまう。
雪が降ったら雪かきで、寒くて外にもいけなくて、仲のいい子は遠いところにおばあちゃんがいるからといつもみたいに遊ぶことが出来ないし。
毎年同じことの繰り返しばかりだ。
でも、中学生にもなって撫でてくるのなんてそういえば幼なじみのお兄さんくらいだなとふと隣を見た。
弟が既にコマを進めていたので、二番手だった兄さんは何だかんだ言って楽しそうにルーレットを回して参加し始めていた。
ドア越しに居間から、新年特有のとても陽気な唄い声が調子よく届いてきて私はルーレットに屈むと負けないように気合いを入れた。