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Scarlet Stitch

本編+後日談
本編 (*R-18)
Extra
番外編
🌸…本編ネタバレあり
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プチ家出

私にはいわゆる分かりやすい反抗期というものはなかったように思う。

兄さんのように何にでも反発するような激しいものではなかったけれど、
それでも中学三年生の夏頃には受験のストレスもあって、
一度、お母さんに反抗して夜だというのに家出したことがあった。

といっても、行き先なんて思いつかなかったので、向かいのマンションにある幼なじみのお兄さんのところに訪ねていった。
我ながらとてもスケールの小さな家出だったと思う。
友達はそれなりにいたけれど、夜中に急に訪ねるなんて迷惑なことをしたくはなかった。

……考えてみると、私はあの頃から、イトくんに甘えていたのかもしれない。

おじさんが残業で遅いから気を抜いていたのだろう、
高校の制服のままで漫画雑誌を広げた居間に、イトくんは驚きながらも私を出迎えてくれた。
「貰いものでいいなら、お菓子でも食べるかい」
「……うん」
なんだか気が抜けて、涙が半分乾く。
網戸だけの居間には夏風が吹き込んでいて、ペットボトルから直接注がれた炭酸水はぬるかった。
イトくんが向かいに座り、少し目を逸らしてから、テレビのリモコンを弄んで、また床に置いた。
私はそれを見ながら、この人の来ている制服の高校に、行くんだなぁということをぼんやりと考えていた。

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