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Scarlet Stitch

本編+後日談
本編 (*R-18)
Extra
番外編
🌸…本編ネタバレあり
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EXTRA / 1-(2)

実のところ、ちゃんと会うこと自体が久しぶりだった。

幼馴染の方は年明けに推薦でさっさと進路を決めてしまったけれど、私の試験は二月の下旬だったからだ。
去年の冬から春にかけてゆっくり二人で過ごしたのは、十二月半ばにあったイトくんの誕生日くらいだったと思う。
年明けからは自由登校で、登下校の時間も別々になり。
つい数日前の合格発表までは、大学受験生として後期試験の勉強でずっと図書館と家の往復生活だった。
イトくんは何度か家に来ていたし、頭を撫でてくれたり話を聞いてくれたりはしたけれど、それ以上のことは暗黙の了解でしていなかった。

そんな自制の成果が出たからこそ――こうして隣にいられるのだと分かっている。

分かっているけれど。

空いた左手の指先でマフラーの毛房を弄ぶ。
雪がひとひらその上に舞い落ちて澄み、水になって糸にしみた。
空を見れば、雪が光を遮るところだけが点々と影になっている。

知らない道路と住所と、駅の名前。
あまり見かけないスーパーの看板。
久しぶりに会った幼馴染に呼ばれる声。
大切で仕方ない、優しくて大きな手に髪をなでてもらえるかもしれないこと。
何もかもがあたたかすぎて、嬉しいのと同じくらいに戸惑っている。
図書室や、古いマンションの小さな私の部屋から見える空ばかりが、この何ヶ月も私にとっての世界だったのに。

小さな湯呑みを洗おうとして、水道の蛇口を開きすぎてしまったみたいにどんどん流れ込んでくるそれに、心も意識もついていけてない。
急に何も我慢しなくていい状態になってしまった現状がどうにも落ちつかない。

それでも、
会えないのは苦しかったから。

手を重ねるだけでもいっぱいいっぱいのくせに、
背中に腕を回したくて触れたくて、
体温が恋しくて、どうしていいのか分からない。

「ひーこ」
俯いていると、優しい声で名前を呼ばれて、顔を上げた。
視線の先で幼馴染が舞う雪を眺めて口を噤み、それから、言葉を探すように目を伏せる。
「なに」
「ええと、……なんなら駅に戻るけど」
風が強まり、マフラーを流す。
ことん、と。
どこかで、ものが転がる音がして、波立つ心に小さく落ちた。
妙に残念そうなその声に、緊張がほぐれて溜息がちに頬が緩む。
その提案は、この人らし過ぎてかえっておかしい。
なんとなく笑えた。
返事の代わりに大きな懐かしい手を、私の方から握り返す。
イトくんは私を数秒眺めてから、頷いて、静かに目元を和らげた。
繋いだ手をもう一度だけ握り、離してからそっと頭を撫でてくる。
「ありがとう」
「うん、」
撫でる手が次第に位置を変えて耳の脇から指を差し入れ髪を梳くので、さすがに周囲を気にして半歩下がった。
お礼を言われるようなことではないと思う。
手袋を忘れた指が赤かった。
ひやりと湿った風が、揃えたばかりの毛先を揺らす。
カーブミラーに映る遠い山の稜線と雪の舞う空は溶けあって、まぼろしみたいに淡かった。

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