主張
風が吹いて葉桜が緑に揺られて川に映えていた。
窓を見ながら目を細め、幼馴染がカルピスをひと口また飲む。
いつまで見ている気だろうか、と語学の予習からふと顔をあげて私は思った。
一緒に医学英語(私にはさっぱり分からない)を辞書を共有して勉強中だったのに、向かいは先程から全然ページが進んでいない。
私もコースターからグラスを引き寄せ、ひと口だけカルピスを飲んだ。
電気代節約のため、冷房だってあまり部屋を涼しくはしていない。
コップの縁から水滴が伝い落ち、大学ノートに数滴ふやけた。
溜息をつく。
なんとなく勉強に飽きてきた。
ちらりと窓を眺める彼に視線を向けて、すぐにとけた氷のかけらに落した。
ちょっといろいろ、自分から要求するのは無理がある。
勉強してからどこかに行こうと、主張したのは私なのだから。
どこかに行きたいというのが、今の私の欲求でもないのだから。
「花火したいなぁ」
ぽつりと脈絡なく耳に届いた声に、意識が浮かんだ。
私は顎を上げた。
幼馴染が窓を見たまま満足そうに笑っていた。
「花火。したいね」
「……まだ昼じゃない」
「だから夜にだよ」
「夜までいてくれる?」
グラスを持ったまま尋ねた。
幼馴染はふと笑みを薄めて、目元を僅かに動かした。
窓の外では変わらず夏が、輝いている。