目次

しんさんとしの

本編

あの夏のこと、思い出した夏のこと。

番外編

何気ないただの日々。

『夏の日々』

『冬の日々』

『ままごと』-パラレル

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02 / 竹河 辰

アイスでも食べようと部屋を出かけたところで、廊下から声がした。
昨日の今日で懲りることなくまた来ているらしい。
私はドアノブから手を離した。
階下から二階に向けて聞きなれた幼馴染の声がする。
「――志郎。志野はいるかい?」
ドアのすぐ向こうにいるのだろう、ドア越しに弟の答えが聞こえた。
「あー。今日は竹さんが来ないって嬉しそうに好きなCDかけてたから、まだ部屋にいるんじゃないかな」
「ひどいな」
「嫌われてはないから。いいんじゃないの」
「志野は、他に何か言っていたかい?」
なんで志郎に聞くのだ。
ドアに背中を預けて座り聞きしながら、私は天井を仰ぐ。
「何喧嘩したん? 姉さんじゃなくて、竹さんが何か言ったんだろ」
「鋭いね。そういうおまえなら分かるだろう」
「分からないよ」
途方にくれた声で返すのに愉快そうに笑って、幼馴染は余裕のある口調で語りかける。
階段の軋みが聞こえた。
多分辰さんが二階に上がってきたのだろう。
「まあそれはともかく。これからしばらく大変だろう。でも志郎ならきっと合格するさ」
「なでんなって……うん、先のことなんて分からないけど、やれるだけはやる、かな」
「良い心がけだ、そういうところが志野に似ている」
いつものあの笑みで言っているのだろうと思い、思わず顔をしかめた。
似ているだろうか。
「まあ姉さんも暇みたいだったから、適当に遊んでやって」
「へえ、いいのかい?」
「竹さんがいて嫌だったことはないよ」
志郎が、こともなげに言った。
そう。
それは、そうなのだ。
何を考えてあんなことを言い出したのかは分からないけれど、
小学校の頃からのつきあいで、彼は私たちにとっての日常なのだから、嫌とかそういう範疇の人間では既にないのだ。
アイスだけじゃなく麦茶も飲もうと思っていたし、もう一人分くらいまだあったはずだし、私は腰をあげると、もう一度ドアノブに手をかけた。

しんさんとしの
(2:竹河辰)