19 / 田中 葉子
大学のキャンパスからの坂道を、二人してくだっている途中で葉子さんが立ち止まった。
そうだそうだ、と籠バッグから橙革の財布を取り出し、中をあさる。
夏らしいタンクトップと短パン姿で、青空がよく似合っている。
「お盆ギリギリまで営業してるんだ。絶対来てよ、サービスするから」
へえ、と頷く。
名刺サイズの喫茶店案内カードをもう一度裏返した。
高校生の頃からアルバイトを続けているらしい。
夏季の補講で最近知り合った田中葉子さんは、短い髪を風に吹かせてすらりと足を見せていた。
バス停は蝉が鳴き声をひっきりなしに降らせていて雲はあまりに白かった。
過ぎ行く車や、目の前で停車したバスに反射するたび目が痛い。
今年の夏は気候がおかしい。
どこか遠くで軽音部の楽器が陽気に緑に騒いだ。
『――大学前。大学前ぇ』
ぷしゅうと息をはいてドアがスライドし、反対側から数人降りてくる。
葉子さんは自転車を引いていたので、バスに乗るのは私だけだった。
またね、と軽く交わしてカードを鞄にしまう。
携帯電話の電源を落として後部の二人掛けに一人で座った。
冷房のきいた空気は心地よく、流れ行く街の風景に盛夏をぼんやり呼吸する。
考えることなんてたいしてない。
うつらうつらと船を漕いだ。
瞼の裏で初夏に見てきた映画みたいな、白の眩い夢を見た。
しんさんとしの
(19:田中葉子)
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