目次

しんさんとしの

本編

あの夏のこと、思い出した夏のこと。

番外編

何気ないただの日々。

『夏の日々』

『冬の日々』

『ままごと』-パラレル

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23 / 四年前-2

歩いていても涙が出なくなった。
こんな日が来るとは思わなかった。
空が青いのに悲しくなくなった。
ただ寂しい。

見慣れた道を一人で帰って、誰もいない家の鍵を回す。
髪の軽さにはまだ慣れない。
時間の感覚がないままぼんやりと、お米をといでタイマーだけセットしておく。
くつくつと弱火にかけて、味噌汁のだしをとる。
おひたしは朝のがある。
日が暗くなりかけている。
お父さんは出張に行ってしまって、お母さんは夜勤。
私は家に暫く一人だ。
副部長から久しぶりの手紙が来たのは一昨日で、だけどあんまり嬉しくなくて。
机の上に広げたままだ。
気がつくと、居間に座ったまま日が暮れていた。
網戸から流れ込む空気はいつの季節のものだろう、空気が温くて気分が悪い。
騒がしい声が廊下から聞こえて、スイッチがついて居間が明るくなった。
「おかえり」
「……ただいま。電気くらいつけろよ」
弟は低く呟いて、そのままいったん部屋に上がった。
幼馴染は荷物を居間に放って、私を流し見た。
それから悠々と、何もないかのようにソファにもたれてテレビをつけた。
テレビを見たまま、私を呼んだ。
「志野」
私は眼で応えた。
「夕飯は」
「……支度する」
「そうじゃなくて夕飯は、志郎が作る番だよ」
「そうだっけ」
「そうだよ」
そう呟いて、背の高い幼馴染は、穏やかに笑った。
その穏やかさが色素の薄さに溶けて、目にしみた。
辰さんは何も言わない。
本当に何も言わない。

しんさんとしの
(23:四年前-2)