水の通ったホースを地面において蛇口を閉める。
私は足首にかかった水を指で擦って、ホースを巻き取ろうと緑の管に手をかけた。
乾いた埃で汚れたホースが手の中でざらつく。
服を汚さないように、少しからだから離したまま私は先を引き寄せ始めた。
ふと顔を上げると、昼も終わりの庭に淡い虹がかかっているのが目に入った。
その幽かな色づきにふと目が奪われていく。
水しぶきで一瞬だけ庭に落ちた七色の向こうに、青い空と近所の家々が広く敷き詰められていた。
「姉さん」
弟が居間の網戸を引いて顔を出した。
私は水遣りの名残から視線を外した。
「どうしたの」
「先輩が外国のゼリー持ってきたよ」
「なんで」
「貰ったんだって。冷えたら食うだろ」
私は頬の汗を手の甲で軽く擦った。
そうしたら手についた水が顔に跡を引いたので、意味がなかった。
「食べる。ありがとうって言っておいて」
「どういたしまして」
弟の後ろから声が飛んできたので、弟が顔をしかめた。
「…だってさ」
「まだお茶はあった?」
「さっき入れた」
「そう」
ホースを巻き取って水道の傍にまとめて放る。
脇を見れば、もう虹は消えていた。
太陽はさっきよりもほんのわずかに淡さを増していた。
夕暮れに空が染まるまで、もう少しだけ時間がある。
父が久しぶりに帰る週末まで、あと数日間あった。
しんさんとしの
(008 :水撒き)
(008 :水撒き)