目次

しんさんとしの

本編

あの夏のこと、思い出した夏のこと。

番外編

何気ないただの日々。

『夏の日々』

『冬の日々』

『ままごと』-パラレル

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「む」
テレビから目を離して幼馴染が小さく唸った。
その隙に弟が彼の肘下にあったリモコンを引ったくりチャンネルを教養クイズ番組から野球中継に変えた。
私は漬物と混ぜ合わせた納豆を、雑穀ごはんにかけている。
あまりに暑いのでつけたエアコンの除湿が涼しく、息のしやすい夏至頃の夜だった。
「これ、美味いね」
もう一度汁物を口につけてから、辰さんは箸ごとお椀を覗き込んだ。
「味噌汁じゃないとは思ったけど。海苔じゃないか」
「うん。雑誌に載ってた。おいしいよね」
昼に試したら結構いけたので夜も挑戦してみた。
昼よりはおいしくできたっぽい。
お母さんにも帰ってきたら教えようと自分も熱い汁に口をつけながら思う。
お椀の隙間から広告背景の野球場と構えるユニフォームが見えた。
打った。
ファールだ。
「あー」
弟が料理のことなどまるで気にせず適当に口に運んで飲み込みながら苛立っている。
「何、やってんだ馬鹿バカっそこは振るとこじゃないだろってぇ」
私は髪を耳にかけ、茶碗をいったん置くと弟の足元からリモコンを取り上げて、二回チャンネルボタンを押すと明日の天気予報に変えた。
明日は晴れてもらわなくては困る。
「天気予報終わるまで。あとご飯が冷めるから食べてちょうだい」
弟の襲撃からリモコンを後ろに遠ざけた。
辰さんが汁物をお代わりしたいと、暖簾をくぐって台所に消えていった。

しんさんとしの
(026 :海苔汁)