夜がやってくるのを居間の網戸から眺めていた。
扇風機というのは、とてもすごい発明なのではないかと思う。
「姉さん、ごはん」
「うん」
「運ぶの手伝えよ」
「男二人で頑張って。」
弟の視線を受けずに私は手を振った。
明日の花火大会を前に町内全体がそわそわと夏の空気を押し転がしている。
夏というのは、心地がいい。
私は冬生まれなのだけれど、なぜだかとても自分とは切っても切れないおかしな季節だ。
背中からカレーの匂いがして、私は振り返った。
お盆に載せた三人分の皿とスプーンをテーブルに下ろす幼馴染の曲げられた上半身が、目に入る。
同時くらいに、コップと麦茶の大瓶で両手を塞いだ無理な体勢の弟が、廊下の外から現れた。
私は黙って二人を眺めていた。
「お嬢さん」
余裕のある声がして、瞬きをする。
悪戯っぽい顔で私の傍にやってきた同い年の青年は、僅かに口の端をあげて目を細めた。
「夕食ですよ」
私はむっつりと黙った。
いいではないか、たまには手伝いをしないことがあったって。
「……どうも」
窓の外の透明な紺を横目に映して、私は立ち上がった。
それよりもずっと背が高い幼馴染が、今度は純粋に声を立てて小さく笑う。
「別に責めていないよ、志野」
「俺は責める!」
すぐに弟のツッコミが入った。
自分だって普段あまり手伝わないくせに、と私が言う前に、辰さんが弟に醒めた目を向けて声を飛ばした。
「おまえが言うな」
「辰さんに賛成。でもとりあえず、冷めちゃうから食べない?」
幼馴染の背中を私は押して、彼の隣から抜けると自分の席に座った。
なんで弟は、自分の番になるとしょっちゅうカレーばかり作るのだろう。
夏になると茄子やピーマンの入った夏野菜のカレーを作ってくれるので、それが好物の私にはだけど少し嬉しいのだった。
金属のスプーンに蛍光灯の白が眩く反射している。
(012 :スプーンと夏野菜)