目次

しんさんとしの

本編

あの夏のこと、思い出した夏のこと。

番外編

何気ないただの日々。

『夏の日々』

『冬の日々』

『ままごと』-パラレル

作品ページへ戻る

家に帰るという考えすら厭わしかったので三笠の家に寄った。
跨ぎなれた敷居を越えて、スニーカーを脱ぐ。
「……こんにちはー」
三笠のおばさんの靴とバッグを見つけたので、上がる手前で一応、言うだけ言う。
姉弟二人のときなら挨拶すらしないことが多い。
それでも構わないと言ってくれるのがありがたい。
奥から壮年の夫人が顔を出し、息子似の表情で彼を見た。
「辰くん? あらら、志郎はまだなのよ」
「こんにちは」
普通の母親は、こういう人だと思っていいんだろうか、と彼は思う。
少なくとも、彼女には非常に感謝をしている。
普通とか普通でないとか、そういうことすら関係なく、ただひたすらに。
「まあ、何もないけど好きにしてってね」
「はい、どうも」
頭を下げて、そのまま二階に上がる。
帰っていなくとも部屋に上がりこんでいようか。
それとも居間に戻ろうか――と考えて、辰は隣にある扉をちらりと見た。
軽くノックをしてみる。
がちゃりと扉が開いて、幼馴染みが顔を出した。
「おかえり。何?」
「……」
くせっ毛の間にあるつむじを見下ろして、辰は暫く彼女を見つめた。
僅かにに湧き上がった笑みが目にしみた。
どうして、当たり前のようにお帰りなどといってくれるのか、この幼馴染は。
「ただいま。顔が見たかっただけだよ」
「じゃあもういい?」
「冷たいなあ志野は」
自分の声に、彼女が無関心な視線で応えた。
その距離に、彼はいつも一生分の感謝をする。

しんさんとしの
(017 :竹河辰、三笠志野)