家に帰るという考えすら厭わしかったので三笠の家に寄った。
跨ぎなれた敷居を越えて、スニーカーを脱ぐ。
「……こんにちはー」
三笠のおばさんの靴とバッグを見つけたので、上がる手前で一応、言うだけ言う。
姉弟二人のときなら挨拶すらしないことが多い。
それでも構わないと言ってくれるのがありがたい。
奥から壮年の夫人が顔を出し、息子似の表情で彼を見た。
「辰くん? あらら、志郎はまだなのよ」
「こんにちは」
普通の母親は、こういう人だと思っていいんだろうか、と彼は思う。
少なくとも、彼女には非常に感謝をしている。
普通とか普通でないとか、そういうことすら関係なく、ただひたすらに。
「まあ、何もないけど好きにしてってね」
「はい、どうも」
頭を下げて、そのまま二階に上がる。
帰っていなくとも部屋に上がりこんでいようか。
それとも居間に戻ろうか――と考えて、辰は隣にある扉をちらりと見た。
軽くノックをしてみる。
がちゃりと扉が開いて、幼馴染みが顔を出した。
「おかえり。何?」
「……」
くせっ毛の間にあるつむじを見下ろして、辰は暫く彼女を見つめた。
僅かにに湧き上がった笑みが目にしみた。
どうして、当たり前のようにお帰りなどといってくれるのか、この幼馴染は。
「ただいま。顔が見たかっただけだよ」
「じゃあもういい?」
「冷たいなあ志野は」
自分の声に、彼女が無関心な視線で応えた。
その距離に、彼はいつも一生分の感謝をする。
しんさんとしの
(017 :竹河辰、三笠志野)
(017 :竹河辰、三笠志野)