夜半過ぎに目が覚めた。
網戸の向こうでは雨樋とベランダを打つ激しい水音。
部屋の湿気は眠ったときよりさらに濃い。
瞼にかかるくせっ毛をよけて、目を擦る。
何か胸がざわざわしていてしばらくベッドで目を開けていた。
雨音が降り続いて薄い寒気が窓からゆっくり侵入してくる。
単身赴任のお父さんが送ってきたお酒でも飲もうかと、パジャマのままで部屋を出た。
廊下は薄暗く、志郎もさすがにもう寝ているようだった。
階段の途中で足元の明るさが濃くなり、台所からもれている明かりに気づいた。
のれんをくぐる。
お母さんではなかった。
いつものように泊まりにきていた幼馴染の青年がお酒を飲んでいた。
こちらを見て軽く目元をうつろにし、辰さんはグラスを口元で傾けた。
私は洗いものの中からグラスを掴んで軽くゆすぎ、丸椅子を向かいまで引っ張っていった。
辰さんが黙ったままこちらを目で追っている。
「ねえ。私も貰いたいんだけど」
「どうぞ。早起きだね」
「また寝るわよ。辰さんは寝ないの?」
彼は軽く眉を寄せて透明な液体をまた飲み干した。
時計を見ると三時半だった。
こんな時間に起きるくらいの、中途半端な夢を見たのだった。
まるで光を煙が遮るようにして雑音が屋根に鳴り響いている。
「あのね。辰さん」
「ん」
「辰さんに告白する夢を見た」
目の前で軽く噴き出された。
汚い。
咳き込んでいるのを見ながら少し椅子を引いた。
一分くらいの時間がそのまま経った。
俯いたままかすれた喉を押さえ、幼馴染の青年がようやく呟く。
「何だっていきなり」
「さあ」
「それはあれかい。正夢だね?」
「ありえないと思うけど。私辰さんのこと好きじゃないもの」
うわ。と辰さんが微妙な顔でぼやいた。
私は肩をすくめた。
幼馴染は私をしばらく眺めてから、なぜか楽しそうに口元を緩め、目を床に伏せてグラスを置いた。
長い手が伸びをして、鈍重に腰を浮かせる。
私は首を背後に回した。
「寝るの?」
「おやすみ、志野」
細身の長身はほやほやと手を振って台所の外に出て行った。
暖簾がまだ揺れている。
「……」
まあ。
眠れるようなら何よりだ。
雨は四時頃僅か弱くなって、しばらくするとまた大降りになった。
明日は私も午後から授業だ。
お酒は美味しいけれども、そろそろまた寝なくてはいけないので、二人分のグラスを流しに置いて水道水で満たしておいた。
(028 :夢の効用)