目次

しんさんとしの

本編

あの夏のこと、思い出した夏のこと。

番外編

何気ないただの日々。

『夏の日々』

『冬の日々』

『ままごと』-パラレル

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そんな必要はまったくないんだよ。

と辰さんは言って斜め後ろから長い腕を伸ばした。
影ができたので見上げる。
節くれ立った指が私の赤ペンを取り上げ、問題集から教科書を比べて指し示した。
とん、と紙にこすれる静かな音がする。
「これは、ひっかけ。こっちの公式を使う」
「教えないでよ」
「意地悪をしたい気分だったからね」
口角を軽く吊り上げて眼を眇める幼馴染は蔓草色の長袖シャツでまた私のベッドに戻っていった。
その途中で薄暗くなってきたからか紐を引っ張って蛍光灯をつけている。
まったく誰のベッドだと思っているのか、寝っころがって本を読みはじめたのでまた手を止めた。
「あんまりぐちゃぐちゃにしないでね」
「しないよ」
「志郎、そんなに怒ってないから仲直りしに行けば?」
「しないよ」
まったく。
頬杖をついて夕暮れの窓を眺める。
午前中から日曜日なのにずっとこう、二人ともたいがい意地の張りすぎというものだ。

しんさんとしの
(027 :回答集にカキ氷をこぼせ)