鈴が鳴る。
夏が来る。
いつものように、敷居をまたいで弟の元に幼馴染がやってくる。
受験生なのに余裕だなあ。
居間に広げたノートから顔を上げると、ブックバンドに辞書やら教科書やらをぎっちり留めて抱えた幼馴染が、色素の薄い髪をかきあげて通り際にこちらを覗いた。
「勉強してるの?」
「してますよ。」
「頑張るんだよ。」
余裕の笑みで目を細めて、軽い足音が二階へあがっていく。
弟の声が聞こえて、何やら笑い声がこちらまで響く。
男子は男子同士で勉強するのが良いのだろう。
私もその方が楽だと思うし。
また風鈴が鳴った。
扇風機が私のTシャツの中に風を送り込み、卓上のカレンダーをかたりと揺らした。
二人分の足音がどたどたと降りてくる。
「ねーさんねーさん、テレビテレビ」
「あのねえ」
「志野、今日が何の日か忘れているだろう」
弟がリモコンを取り上げる横で、幼馴染はソファに置いてあった新聞を広げた。
「何の日?」
同い年の男子をじっと見ると、向こうはなぜか新聞で顔を隠した。
なんなんだ。
「今日はほら、7月25日だろ」
弟がそう言ってばたばたとキッチンに走っていった。
スイッチがついたテレビが雑音のように急に蒸し暑い居間を満たして、ああ、なんだか夏だなあと私は頬杖をついた。
「辰さん。」
「ん?」
声をかけたのに、向こうはこちらを見ないでテレビに視線を向け続ける。
……高校生の知り合いなんてこんなものかもしれない。
でも微妙に間が持たなくてため息が出た。
「辰さん、勉強はどうなの?」
「ああ……」
ついていた頬杖を思い出したみたいにふっと外して、幼馴染はこちらに顔をゆっくり戻した。
「なんとかするよ」
「国立?」
「まさか。専門学校だよ」
「……へえ。」
少し勿体無いなあと思った。
「駅の傍のあの学校、分かるだろ。特待制度があるんだ」
「……あ、そうなんだ。」
「まだ分からないけれどね。」
いつもしっかりと決めていて、行動力があって、ちょっと変わっているけれどこの人はとても偉いと思う。
弟が三人分の麦茶と、蕨餅をお盆に載せて持ってきた。
テレビのチャンネルを辰さんが変える。
夏のこの日は、いつも三人でこの番組を見る。
(001 :将来と今)