目次

しんさんとしの

本編

あの夏のこと、思い出した夏のこと。

番外編

何気ないただの日々。

『夏の日々』

『冬の日々』

『ままごと』-パラレル

作品ページへ戻る

「あまり無理をしないでね」
その台詞はあまりに陳腐だといつも自分で思う。
できるものならこの人だってそうしたいだろうに。
もやもやして溜息をつくと、幼馴染がくしゃりと私の頭をなでた。
「ありがとう」
「撫でるの止めて。」
「止めません」
実に楽しそうにそう言うと、彼はやわやわと頭部を撫でて、にまりと笑った。
「志野は身長、どのくらいあるのかな」
「164センチです。」
強引に腕をのけて、私は玄関へ向かった。
辰さんが後ろからこっちを見ているのが分かる。
「勝った」
「当たり前でしょうが。見れば分かるよ、もう」
幼馴染は背が高い。
180は越えていると思う。
靴を履いてかばんを引っつかみ、戸を横に引く。
今日の天気はなんだかどんよりしていた。
「行ってらっしゃい」
背中に声が飛んで、私は振り返った。
送り出してくれる人がいるのはいい。
いつも弟と世話しなく鍵をかけて飛び出していた思い出ばかりで、だから、お母さんでもお父さんでも弟でも誰にでも、行ってらっしゃい、と言われるのは好きだ。
我知らず笑みを浮かべて、私は手を軽く上げて行ってきます、と言った。
よく考えればここはあの人のうちではないので変な現象だったけれど、まあ、いいか、とそう思いながらも。

しんさんとしの
(003 :みおくられる)