22 / 時は流れる
カットソーの袖口を肩まで巻き上げて、洗濯物をえいと取り込む。
四枚のバスタオルをまとめて抱えて片手にいっぱいの洗濯籠。
サンダルを適当に脱ぎ捨て、網戸をあけると扇風機の涼しい風が熱気と混ざった。
湿気を含んだ追い風が木々を泳がせている。
蝉がいつの間にか鳴きやんでいた。
洗濯物をたたんでいる間に、思ったとおり夕立が降り始めた。
そうして久々に、幼馴染の辰さんがふらりとうちにやってきた。
風邪を引いたとかで来なくなってから何日たっていたろうか。
志郎は一旦帰ってきて辰さんが寝ていると知ると、また駅前の夏期講習に行った。
受験生の雰囲気はほんの数年前に味わったばかりのはずなのに、妙に懐かしいから変な気持ちがする。
机に突っ伏して寝ている幼馴染を起こしがてら麦茶をつくることにした。
グラスに注いで瓶の中身を使いきり、軽くゆすいでまた水でいっぱいにした。
新しいティーバッグを菜ばしで沈めて冷蔵庫に戻す。
沈んだ底の麦茶は、氷で薄めても小さな滓が残ってすぐそれと分かるだろう。
まあいいけど。
どうせ辰さんのだし。
自分には冷水をつくって、静かな居間へ持っていく。
うるさいくらいだった雨音がどこか遠い。
夕立は去りかけているようだった。
ほんとうにいつからだったろうか。
小学校の頃も、中学生になっても、ましてや私が恋をしていっぱいいっぱいだった高校の前半までは、私と辰さんは日常以上の会話などしたこともなかったのだ。
起きないのでテレビをつけようかと思ったけれどやめた。
読みかけだったファッション雑誌をぱらぱらと眺めて、水を飲む。
傍の背中をちらと見やり、また雑誌に目を落とす。
「辰さん。麦茶あるよ」
氷が鳴った。
起きるまでの少しの間、夕陽の射しはじめる通り雨の最後をなんとなく聞いていた。
気が早い蜩はもう鳴き出している。
――本当は、いつから辰さんがこうなったのか分かっている。
出会った時からずっと、私たちは話す必要が最初からなかったのだ。
削れて削れて薄くなるまでの間は、そうする必要がなかっただけなのだと、それだけのことだ。
私が、16の夏に副部長がいなくなった後に、辰さんに水面から落ちないようにしてもらったのと同じことだ。
氷が解けて、またからん、と響いた。
網戸を開けて風を入れる。
しとしとと、夕立の名残がまだ縁側と敷石を濡らしている。
(22:時は流れる)