すぐ後ろでけたたましく蝉が鳴き始めたので、青年は顔を上げた。
観て来た映画のパンフレットが、足元の鞄から覗いている。
昼下がりだというのにほとんど人のいない公園のベンチに座って、足の裏で砂利を擦る。
隣で寝ている幼馴染にふと顔を向けて、彼は優しく表情をほぐした。
彼女も彼も、普段は映画を人とは観に行かない。
一人で見るのが好きなのだ。
ただ、互いに幼馴染のこの相手だけは別で、大抵感想も見方も似ているから、暇があって同じ映画に興味があって、なおかつ面倒くさくないという小さな条件がたくさんそろうと二人で行くこともある。
彼は、今日見た映画を思い出して空を仰いだ。
青く、高く、白い雲をまぶしく太陽が照らして、夏が近づくのを知る。
不覚にも、数年ぶりに映画を見て泣いてしまった。
隣の志野が驚いていた。
……今思えば非常に恥ずかしい。
気まずそうに左手を額にあて、彼はわずかに赤面した。
気が弱っているときに志野に頼りきってしまうのは、死んでも嫌なのだが。
「お前が意識してないのは分かるんだけどね、」
小さく呟いて、ため息をつく。
彼女が何気なく言う一言一言に、どれだけ救われているかおそらく本人は知らないだろう。
頼ってほしいとか助けたいとかそういう意図で言うのではないからこそ、救われるのだけれど、それでもどこか後ろめたいと青年は思う。
帰路の先に待つ場所に気を滅入らせて、寂しそうに彼は両指を膝上で組んだ。
木漏れ日が穏やかに眩しい。
もう一度、隣の幼馴染を見る。
青年はベンチに背を預けて、組んでいた指を解くと彼女の髪をふわふわとなでた。
それでも起きないのに眩しそうに笑んで、小さな声が夏の空気に消えた。
「本当に好きだよ。」
蝉の声が大きくなる。
公園外を通る車のエンジン音が、遠く聞こえてきた。
もう一度頭をなぜて、辰は寂しそうに笑って言った。
「好きだよ、志野」
聞こえていないのに安堵の表情を浮かべ、彼は頭から手をそっと放した。
蝉がひときわ大きく鳴いてぶつりと黙り込み、今度は少し離れた場所で別の蝉が鳴き始める。
公園のずっと向こうで子供の甲高い笑い声が響き、ヘリコプターが大きな音を空に撒いてちらちらと太陽を遮っている。
ほんのかすかなそよ風が吹いて、彼のシャツをなでた。
(002:木漏れ日)