弟の一日おいた夏野菜カレーを皆で食べた後、母がお皿を洗ってくれていた。
居間のクーラーが壊れていなかったのでおそらく中学三年生の頃だったと思う。
私は受験生の初夏ということで(割と本気な進路調査と期末テストの前だということもあり)、単語帳片手に居間のソファに座っていた。
5本300円のミルクアイスを頬張りながら、あまり進まない暗記に疲れてソファにずりずりと転ぶ。
「姉ちゃん、だっらしねえ」
弟の呆れた声が飛んだ。
いつものように家に来ていた幼馴染もこちらを振り返り、呆れたように笑う。
「志野、その格好はない。ないわ」
「うっさいなぁ。何してんのさっきから」
しかし私は周囲の空気に押されて、高学年あたりから名字で呼ぶように切り替えたというのに、竹河くんはぶれない。
学校では空気を読んで名字で呼ぶこともあるけれど、うちにいるときは昔のように「志野」と呼ぶ。
正直、「竹河」という名字は言いにくいしどうにも慣れないので、高校が別れるなら、私も呼び方を戻したい。
割とどうでもいいことを考えてアイスをまた一口かじる。
寝ころんでいるので鼻に冷たいのがぽとりと落ちる。
溶けてきた。
台風が近づいてきているらしく、夕方くらいから雲が出てきて外の風が強かった。
折よくテレビの気象予報士さんが『夜半から雨が降り……』と言っている。
改めてそちらを見ると、弟と幼馴染の竹河辰くんは何やらパンフレットを見て相談をしているところだった。
「それ何?」
「姉ちゃん、スポーツ観戦しようぜ。有料チャンネル。小遣い千円ずつ減らしてもらやいいじゃん」
「やぁよ」
なぜあんたのために、私までお小遣いを減らしてお願いしなくてはならないのか。
確かに私は陸上部だけれど、別に巧いわけでもなくレギュラーでもないし、そこまでの興味がない。
というか今年は、受験生なので多分テレビにかじりついている余裕がないと思う。
「竹河くんも見たいの?」
「まさか、そんな贅沢は言えないよ。高校に入ったらバイトできるようになるからね。契約だけでもお願いできないかなと」
「すっげー! 何のバイトすんの?」
弟が違った方向に食いついていた。
私はアイスをくわえつつ溶けてこぼれた分を拭い、ソファに座りなおした。
多分。
私達三人で「見たい」とお願いすれば、昔同じように運動部だった(そしてモータースポーツ観戦の好きな)父を通して母を説得すれば、お小遣いを減らしたり視聴料を渡したりする必要なんてないと思うけれど。
母の台所で立てる音を窺って、まあ別にいいかと天井を見る。
(029 :J-Sportsを見たがる男子組の件)