目次

しんさんとしの

本編

あの夏のこと、思い出した夏のこと。

番外編

何気ないただの日々。

『夏の日々』

『冬の日々』

『ままごと』-パラレル

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27 / 昨日の喧嘩

朝が涼しくて扇風機を部屋の隅に押しやった。
太陽が高くなればまた暖かくなるのだろう。
テーブルで一人、味噌汁とごはんの朝食をとっていると、弟と幼馴染が起きてきた。
いつまでたっても階段を静かに降りられないのはしかたがない。
「姉ちゃん、メシ」
「ごはんも味噌汁もあるから勝手によそいなさいよ」
弟をあしらって、きゅうりの一夜漬けをごはんと食べる。
歯ごたえがいい。
「おかずないの。おかず」
「志郎、納豆があるよ。食べていいかい」
辰さんの声が冷蔵庫から飛んでくる。
もうすぐ、辰さんの分の買い置きは何につけても必要なくなるのだ。
お米を買いに行く頻度とか調味料の減り方とかそんな些細なことでしか、思い知らない程度に、痕跡をとどめて幼馴染は三笠の家に来なくなる。
たてすをもう閉まってしまったので、窓から空がくっきりと見えた。
そういえば昨晩は二人とも、全く口を利かなかったのに元に戻っているな。とお盆を使わずに食器だけを運んでくる二人を見た。
食器をひとつひとつ持ってくるのは行儀悪いので辞めてほしいのだけど二人とも、小さい頃から直らなかった。
そう。
弟の方が、ずっと辰さんと仲良くしてきたのだから、最初に打ち明けてもらえなかったことを怒っていいのだ。
辰さんだって分かってくれない弟に腹を立てるのが当たり前だった。
夏風の匂いが香る。
テレビが大型台風と九時のニュースを流していた。
今日も暑くなりそうだ。
「いつ出発すんの」
志郎が拗ねた声を隠し切れていない。
「お前が納得したらかな」
「じゃあ永遠に出発しねえじゃん、それ」
辰さんは頓着せずに味噌汁を啜っている。
私も最後の一口で喉を湿らせた。
花みょうがの香りが夏の終わりを感じさせていた。
辰さんがこちらの視線を受け止めて、目を細めた。
心配なさそうだったので、一足先に食器を重ねて揃え、流し台へと裸足で向かう。

しんさんとしの
(27 :昨日の喧嘩)